2024/03/15

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第29回予告

3月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、3/17(日) 20時からスタートです。

3月のYouTubeの講座テーマは『ユニークなピース交換』です。ピースの交換はポーンの前進と同様に、後戻りができない重要な決断です。同じピース同士の分かりやすい交換から、インバランスで複雑な交換まで、様々なピース交換がチェス盤上では起こり、ゲームが進んでいきます。以前は正しいピース交換というテーマを扱いましたが、今回はユニークなピース交換を見ていきましょう。今月は池田さんの講座テーマが『ビショップとナイトの交換』ですので、こちらも併せてご視聴いただき、ピース交換に対する理解を深めていただければと思います。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第29回『ユニークなピース交換』|2024.03.17

2024/03/05

Tokyo Chess Championship 2024 Day2 Tournament Report

週末の東京チェス選手権は日曜日に無事に閉幕しました。最終戦でTuさんを下し、逆転で単独トップにたった弘平くんが優勝です。今年は2000未満のプレーヤーが上位勢を削る試合が多く、入賞争いは大混戦でしたね。入賞した皆さん、おめでとうございます!

1st Place Yamada, Kohei (FM, JPN, 2294) 5.5/6
2nd Place Tran Thanh Tu (CM, JPN, 2575) 5/6
3rd Place Aoshima Mirai (FM, JPN, 2471) 5/6
4th Place Furuya Masahiro (JPN, 2004) 5/6
5th Place Togawa Kentaro (JPN, 1455) 5/6

Tokyo Chess Championship 2024 Final Standings


私は全体の調子自体は悪くなかったものの、最終戦で負けて去年同様に4P止まりです。最終戦のBhatiaさんとの試合をご紹介します。

Kojima, S - Bhatia, P
Tokyo Chess Championship 2024 (6)

1. Nf3 Nf6 2. g3 g6 3. Bg2 c5 4. O-O Bg7 5. d4 d5 6. c3

この大会では白番で1回、黒番で1回Grunfeldになり、この最終戦は白番でReversed Grunfeldになりました。4Rの東野さんとの試合では相手のcポーンを取った後でセンターを抑えられ、予想より良い展開にならなかったので、この試合では少しcポーンを取るのを慎重にします。

6... Nc6 7. dxc5!


しかし、ナイトがc6に出たのを見て取ります。Nb8-Na6-Nxc5や、Qd8-Qc7-Qxc5のアイディアが無くなると、黒はポーンを取り返すのが少し大変です。

7... a5 8. a4 O-O 9. Na3 Ne4 10. Be3

ここは4R同様のポーンの守り方をしたのですが、より良い手がありました。10. Ng5! Nf6 (10... Nxc5 11. Bxd5 e6 12. Bg2 Qxd1 13. Rxd1 Nxa4 14. Nc4! (ゲーム中、d5のポーンが消えたことでこの手が可能であることを見落とし、検討戦で指摘されて驚きました。) 14... Nc5 15. Nb6 Ra6 16. Be3 Nb3 17. Ra3 a4 18. Nxa4+-) 11. e4! d4 12. e5 Nxe5 13. cxd4 Nc6 14. Be3+/- g5にナイトを跳ぶアイディアは知っていたのですが、a4が弱点となるので本譜ではあまり働かないと勘違いしてしまいました。

10... e5 11. Nb5 Be6 12. Qc1!?


12. Nd2 Nf6 13. Bg5 h6 14. Bxf6 Bxf6 15. c4 d4 16. Ne4+/- こちらも1つの流れで、ポーンアップをキープしたままナイトをアクティブに使って白優勢です。

12... Qe7 13. Ng5! Nxg5 14. Bxg5 Qxc5 15. Nc7 Rac8 16. Nxe6 fxe6 17. h4?!

ポーンを返しても相手のポーンストラクチャーを崩し、ダブルビショップを持てば有利だと考え、16手目まで上手く進めてきました。ところがこの手が緩手で、黒に十分なプレーを許してしまいます。ここは17. e4! d4 18. Bh3 Rfe8 19. Ra3+/- が良いアイディアでした。e4に先にポーンを刺してしまえば、黒のe5-e4からナイト、黒マスビショップをアクティブにするアイディアを防ぐことができ、はっきりと白が有利でした。通常、g2のフィアンケットビショップの前にポーンを差し出す手は、ビショップの利きを止めてしまって良くないのですが、どうせBg2-Bh3からダイアゴナルを切り替えるつもりだったので、e4にポーンが残ることを気にする必要はありませんでした。

17... e4! 18. Qd1 Ne5 19. Bh3 Rce8 20. Qb3 Qc7 21. Qb5 h6?!


これはビショップをf4に切り替えるチャンスを与えるだけに思えます。21... Nc4 22. Bf4を想定していました。

22. Bf4 Qe7 23. Rad1 Rxf4!?

e8のルークをクイーンで当て、十分に警戒しているつもりだったエクスチェンジサクリファイスを実行してきました。白キングを多少危なくするため、実戦的な判断だと思います。

24. gxf4 Nc6?!


ルークをカバーし、クイーンがh4を取りにいく準備にはなりますが、b7が落ちた際にナイトもターゲットになるのが難点です。ルークはクイーンに当てられたままでも、24... Nc4! 25. e3 Nd6 26. Qe2 Qxh4 27. Kg2 で白が良さそうですがまだまだ分からない局面でした。

25. e3 Qxh4 26. Kg2?

ビショップはe6に当てたままにしておき、Rf1-Rh1のチャンスを作るのが良いと考えたのですが、ビショップの退き場所がなくなるのが予想よりも痛手でした。26. Bg2! Re7 27. f3! exf3 28. Rxf3+- くらいで白は満足でした。hファイルにルークをまわすアイディアは考えていても、fファイルから出てくる手は全く考えていなかったので、今振り返るとかなり視野が狭くなっていたことが分かります。

26... g5! 27. Qe2 h5 28. fxg5?!


ここはg5-g4を受ける手がこれしかないと思い、黒からのパペチュアルチェックを覚悟しました。しかし白から勝負にいく手として、28. Bxe6+! Rxe6 29. Rh1 Qg4+ 30. Qxg4 hxg4 31. Rxd5 gxf4 32. exf4+/- とする手があったようです。ビショップを思い切って捨てる手はどこかであると思いましたが、2ピースvs.ルークの局面が評価できず、なかなか思い切れませんでした。

28... Qxg5+ 29. Kh1 Qh4 30. Kg2 Ne5!?

まさかQg5-Qh4からのパペチュアルチェックを蹴り、勝負にくるとは思いもしませんでした。Nc6-Ne5-Nf3のアイディアは少し考えていましたが、キングが逃げ出す時間が生まれるので、きちんと指せれば白にチャンスがあると感じます。

31. Rh1 Qg5+ 32. Kf1 Nf3?!


ナイトが白キングに急接近して危ないようにも見えますが、f3に入る駒はクイーンかナイトか、保留しておくほうが白も判断が難しかったと思います。32... Re7 33. Qb5 Qf6! だとe6を守りつつ、Qf6-Qf3を見せて形勢不明です。

33. Qb5! Re7 34. Qxa5?!

a5のポーンにさほど価値は無いと思いながらも、とりあえずいただけるものはいただき、Qa5-Qd8+をメインの狙いにしようと思いました。しかしここで代わりに34. c4!が5段目の横利きを利用した厳しい1手で、黒のセンターポーンを崩し、dファイルも突破して一気に白勝勢となります。

34... Qe5 35. Qd8+ Kf7 36. Qc8 Bh6 37. Bg2


f3に刺さるポーンも嫌ですが、ナイトをいつでも消せるように準備しておきます。hファイルも開いたことでh5のポーンもターゲットになります。

37... Qf5 38. Qh8 Qg6 39. Ke2??

残り数秒で指した手が、なかなか出ないレベルのひどいブランダーでした。クイーンは攻め入るだけ攻め入って、帰れなくなることを全く想定していません。しかし代わりにどうすれば良いかは少し難しいです。f3のナイトを消しておくのは考えましたが、f3に残るポーンは厄介で、Qg6-Qg2とQg6-Qc2の狙いが同時に生まれます。正解は39. Rh3! Ng5 (39... Re8 40. Bxf3! Rxh8 41. Bxh5+-) 40. Rh2 としてナイトを追い返してしまうことでした。

39... Re8!


クイーンがトラップされ、ゲームは終わりました。がっくり。

40. Qxe8+ Kxe8 41. Bh3 h4 42. a5 Qh5 0-1

クイーンを落とすブランダーだけでなく、再三あった細かなチャンスを逃した甘さは反省します。またそれだけでなく、エクスチェンジを捨てる、明らかなパペチュアルチェック蹴って勝負するといった相手の姿勢も見習いたいですね。最近、安全に指そうとする傾向が強すぎて良くないように感じます。全日本に向けて、もう少し自分のチェスを見直そうと思います。

最後になりますが、今年最初のビッグトーナメントの運営、お疲れ様でした。これからの時期、各地の地方予選の様子を見るのも楽しみにしながら全日本選手権を迎えようと思います。また次の大会でもよろしくお願いいたします。

2024/03/02

Tokyo Chess Championship 2024 Day1 Tournament Report


今日から2日間、東京チェス選手権に参加します。今年は初めて2試合目まで上位にハンデポイントをつける加速スイス式が採用されており、初日の1、2試合目でポイントを落とす上位が多かったです。かくいう私も2試合目で米満くんとドローになり、一歩後退で全勝者を追いかけることになります。今夜は中継の無かった3Rの木下さんとの試合をご紹介します。

Kojima, S - Kinoshita, A
Tokyo Chess Championship 2024 (3)

1. Nf3 d5 2. g3 e6 3. Bg2 Nf6 4. O-O Bd6!?

ドイツ代表のBluebaumがたくさん指しているようですが、この手は調べておらず、どうするか少し悩みました。結局、4... Be7と同様のセットアップにしますが、黒からe6-e5の突き直しがしやすいのが気になります。

5. c4 O-O 6. b3 Nc6!?


e6-e5の突き直しを積極的に狙う、面白いナイトの配置です。6... c6 7. d4 Nbd7 8. Bb2ならば通常のCatalanで、クリスマス大会でも同じ局面を1試合持っています。

7. Bb2 dxc4 8. bxc4 e5 9. Nc3 Re8 10. d3 Nd4 11. Nd2 c6?!

b7のポーンをビショップで取ってもRa8-Rb8の反撃があるため、すぐにb7を守る必要はありません。簡単にe2-e3を許すと、黒のナイトは手数をかけた割りにあまり良い位置とは言えないでしょう。ゲーム中は11... Bg4を一番に考えていました。

12. e3! Ne6 13. Qc2 Qc7 14. Rad1 Bd7 15. Nce4!


黒のd5と白のc4を交換したため、黒はe4のマスを抑える力が弱くなっているのが白の狙い目です。f7-f5はキングを弱めるために指しづらいので、e4が白のナイトにとって絶好の位置と言えそうです。

16... Nxe4 16. Nxe4 Bf8 17. f4! exf4 18. gxf4!

あまり自分で持った経験のないポーンストラクチャーですが、Tuさん、野口さんたちの試合でこうしたアイディアを見た記憶がありました。e4のナイトとあわせてキングサイドにプレッシャーをかけるには、自身のキングを少し危険にしてもe5のポーンを取り除き、b2のビショップの利きを通すことが重要です。加えてd3,e3ポーンは十分にカバーでき、この後でd3-d4,e3-e4と伸ばすことで、強力なセンターポーンを築くチャンスがありそうです。

18... Rad8 19. Kh1


この時点で将来的なNe4-Nf6を画策しており、gファイルが開いた際に素早くアタックするにはどうしたら良いか考えていました。Kg1-Kh1はa7-h1ダイアゴナルを外しつつ、Rf1-Rg1のチャンスも作っておく慎重な1手です。代わりに19. Be5! Qa5 20. d4!としてクイーンを隅に追いやり、d6のマスを抑えておくアイディアもあったようです。

19... b5 20. Rc1!? bxc4 21. Qxc4 Qb6 22. Ba1!?

一見するとb2,e3を同時に狙われて困っているようですが、これはちゃんと考えていました。本譜も悪くないですが、22. Rb1 のほうがすぐにe3取りを催促できるので良かったかもしれません。

22... Qxe3?


ここは22... f5とするしかないと思っていましたが、これでも23. Ng3 Qxe3 24. Nxf5 Qc5 25. Qe4+/-くらいで白が良いようです。

23. Rce1 Qb6 24. f5 Nc7 25. Nf6+!

狙っていた手が決まりました。f4-f5によって4段目が開いており、Qc4-Qg4が黒キングを即狙う決め手になります。

25... Kh8


25... gxf6 26. Qg4+ Bg7 27. Bxf6もメイトです。

26. Qxf7 1-0


初戦に白は勝ちはしたもののいまいちの指し回しだったので、こうしたゲームができて一安心です。明日の2日目も上位に追いつけるように頑張ります。

Tokyo Chess Championship 2024 R4 Pairings

Tokyo Chess Championship 2024 R4 実況中継


加速の影響で、3連勝の中でもかなりレイティング差が見られます。誰かレイティング上位者に一矢報いるか、楽しみにしています。
試合後はとんかつ激戦区蒲田のいっぺこっぺに足を運びました。隣のとんかつ檍は並びますが、こちらは並ばずに同じ檍のとんかつがいただけます。

2024/02/16

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第28回予告

2024年2回目のチェス講座告知です。2月のYouTubeでの講座は今週末、2/18 20時からスタートです。

2月のYouTubeの講座テーマは『ダイアゴナルの切り替え』です。ビショップ、ないしはクイーンの斜めの利き筋は、相手の駒を攻撃する、あるいは複数のマスを抑えるのにとても重要です。そのため試合の中でいかに、どこのダイアゴナルを抑えるかがしばしば作戦のポイントとなります。様々な状況でどのダイアゴナルを重視し、そのダイアゴナルのコントロールを切り替えていくかを見ていきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第28回『ダイアゴナルの切り替え』|2024.02.18

2024/02/15

Chess 2024 Day-to-Day Calendar: A Year of Chess Puzzles


X(旧Twitter) で私をフォローしてくださっているかたはご存じだと思いますが、先月半ばから毎朝、白先2手メイトのチェスプロブレムを投稿しています。これらは先月の東海オープンで賞品としていただいた、Chess 2024 Day-to-Day Calendar: A Year of Chess Puzzles から出題しています。こちらは2手メイトの問題が毎日ついている日めくりカレンダーです。今夜は最近のプロブレムの中で、特に面白かったものをご紹介します。
Charles Pelle 1936
White to move and mate in two moves

こちらは2月14日の問題です。バレンタインデーのこの日はハート形に駒を並べたパズルなどが出題されることもありますが、これは特にバレンタインに関係なさそうです。ここから動けない黒キングをいかに2手でメイトするかを考えます。すでにキングを追い詰めているので簡単そうに思えますが、最初の1手で工夫をしないと黒になにかしらメイトを防ぐ手を指されてしまうことになります。

1. 0-0-0!


2手でメイトするにはこの手しかありません。チェスプロブレムにおいてはすでにキャスリングの権利を失っていると証明できない限り、初期位置のキングとルークはキャスリングできるものとします。ここでクイーンサイドにキャスリングすることで、d2のクイーンのピンが外れて自由に動かせるようになり、次のQd2-Qe2#がメイトスレットとなります。これを黒がどう防ぐかがポイントですが、黒の応手に対して7種類の手がメイトになるのがこの問題の面白いところです。

1... Qe3


黒クイーンはb3ルークにピンされているため、クイーン交換はできません。そこでe2を抑えるために横移動をしますが... (最初、1... Qd3と書いていましたが、これはオリジナルのスレットである2. Qe2を防いでいませんでした。コメントでのご指摘、感謝いたします)

2... Ne1#


c3から黒クイーンが離れると、c2のナイトのピンが外れ、Nc2-Ne1#がメイトスレットになります。よくできた2手メイトのチェスプロブレムでは、白が1手目でメイトスレットを作り、黒がどの応手でそれを防いでも、異なるメイトスレットが生まれるものです。(ツークツワンクを利用し、白の初手でメイトスレットができていない場合もあります) 以下、他の黒の応手と白のメイトの手の組み合わせは、1... Nxf1 2. Rxf1#(ここで1段目のルークを使えるのが、1.0-0-0 が正解になるポイントでもあります), 1... e3 2. Qxd5#, 1... Bh6 2. Ne5#, 1... g2 2. Qf2#, 1... Qxb3 2. Qe2#(Qd2-Qe2を防がない場合は全てこれです) となります。上に7種類と書いてありますが、ここではあえて6種類しか説明してありません。よろしければここで挙げていない黒の1手目と、それに対応する白の2手目を考えてみてください。

こうした2手メイトは、チェスのライト層や将棋ファンにも楽しんでもらえるものですので、しばらく毎朝の2手メイト投稿は続けていくつもりです。

2024/02/04

Symmetrical English 6. Qd2!?


久々にオープニングのアイディアについてを中心とした記事です。昨年11月に中野チェスクラブの非公式戦で指した試合をご紹介します。

Kojima, S - Kimura, R
Nakano Chess Club

1. c4 c5 2. g3 g6 3. Bg2 Bg7 4. Nc3 Nc6 5. d3 d6 6. Qd2!?

初めて見たときは、なんと奇妙な手なのだろうかと思いました。展開していない黒マスビショップの進路をふさぐようにクイーンを配置するのはどう考えても不自然です。この変化を見つけたのはアジア大会でSindarov相手に5. Nf3 d6 6. 0-0 Rb8!?の変化で負けてからラインを調べ直していた時でした。ここでの黒の6手目はいくつも面白い手があるのですが、その1つに6... Qd7!?があります。本譜はこの黒の手を先に白で指してしまおうというもので、白はクイーンサイドにフィアンケットを組めばクイーンの位置の不自然さも解消できます。近年はCarlsenにも指されている、注目すべき手の1つです。

6... e5


黒はc7-c5とe7-e5を組み合わせた、いわゆるBotvinnikのセットアップです。d5をアウトポストにすることを嫌うのであれば、6... e6 7. b3 Nge7 8. Bb2 O-O 9. h4 h6とする流れもありえるでしょう。

7. b3 Nge7 8. Bb2 Rb8 9. e3 a6 10. Nge2 Be6 11. Nd5

白はd6-d5を防ぐよう、黒のBc8-Be6を見てからナイトをd5に侵入させます。白の駒組みはClosed Sicilianで白黒を反転させたようで、とても手堅い形になっています。以下、参考の棋譜と局面です。1. e4 c5 2. Nc3 Nc6 3. g3 g6 4. Bg2 Bg7 5. d3 d6 6. f4 e6 7. Nf3 Nge7 8. O-O O-O 9. Be3 b6 10. Bf2 Bb7 11. Qd2 Qd7 12. Rad1 Rad8 13. Rfe1 Nd4!=/+ / Grigoryan - Dubov / EU-ch 2013
Reference Diagram

こうした形で指せるのであれば、本譜の6. Qd2もタイミングが早くて奇妙に見えるものの、バランスの取れた手になってくるでしょう。

11... b5 12. O-O Qd7 13. f4 Bh3?

d5でのナイト交換に備えた手ですが、センターに残ったキングが危険になります。13... O-O 14. Rf2!? f5 15. Raf1+/= くらいで白やや優勢ですが、もちろん黒も指せる局面です。

14. Bxh3! Qxh3 15. fxe5


15. Nc7+ Kf8 16. fxe5 dxe5 17. Nxa6+- 先にe5のポーン交換を入れておけばa6を取った後でc5にナイトの逃げ場があることを失念していました。しかし、本譜も面白いアイディアが登場します。

15... Nxd5 16. exd6!

黒はキャスリングが遅れており、g7のビショップがまだ浮いています。それを利用したIntermediate Moveでポーンアップを決め、白勝勢です。一方でb2のビショップが浮いていないのは、奇妙に思えた6. Qd2の恩恵です。

16... O-O 17. Bxg7 Nxe3 18. Qxe3 Kxg7


試合後、木村くんにはルークを先にクイーンに当てればc5が落ちることを防げるのではないかとしてきましたが、h6にクイーンの逃げ場があるためダメでした。18... Rbe8 19. Qh6! Qxh6 20. Bxh6 Rxe2 21. Bxf8+-

19. Qxc5 Rbe8 20. Nf4 Qd7 21. Qg5!?


最後はどう決めるか悩みましたが、d6を返しても黒キングに迫るのに十分だと判断しました。21. cxb5 axb5 22. Rac1+-も堅実です。

21... Qxd6 22. Nh5+ Kh8 23. Nf6 Qd4+ 24. Kh1 Re5 25. Qh6 Rh5 26. Qxf8# 1-0

ビショップが抜けたフィアンケットの跡地を利用し、f6にナイト、h6にクイーンを刺す形は鉄板で、h7のメイトと浮いたf8のルークを狙ってメイト受け無しとなります。この変化を対面のゲームで指したのは初めてで、次回使うかは分かりませんが、面白い棋譜が残せてなによりです。

2024/01/31

Yokohama Chess Club Blitz Tournament

先週末は横浜まで足を延ばし、横浜チェスクラブ主催のブリッツトーナメントに参加してきました。参加者は計17人で大人が中心でしたが、午前中のこどもチェス教室から続いて参加した小学生たちも複数おり、中には半分以上ポイントを取る子もいました。今夜は4試合目で当たった米満くんとの試合を振り返ろうと思います。
Yonemitsu, K - Kojima, S
Position after 13. h3

13... Nxc3?!


ここはナイトを捌いてから入れ替えるアイディアが良いと思ったのですが、Bc1-Ba3のチャンスを与えるのはいまいちだったようです。h2ポーンにかわされた直後でもあるため、キングサイドへのアタックにこだわらずに13... Bb4=くらいで良かったでしょう。

14. bxc3 Ne4 15. Qc2 Qf6 16. Ne5?


ここはfファイルからのプレッシャーにどう対応するか悩むところですが、このナイトの跳びこみは少し早かったです。16. Ba3! c5! 17. Ne5+/= と進んだ場合、黒マスビショップの交換を避けるために入れたc5ポーンが多少負担となり、本譜との違いが生まれます。

16... Bxe5 17. dxe5 Qg6!

試合中、e1のルークが浮いているためにe5を取っても良いと思っていましたが、これは勘違いでした。17... Qxe5?! 18. Ba3! (18. f3 Qxc3!) 18... Qxc3 19. Bxf8 Rxf8 20. Rac1 こうしてBc1-Ba3を挟んでおけば、白のルークは連結してe1が浮かなくなるため、f2-f3がスレットになります。本譜はダイレクトに白キングを攻める手で、h3をどう受けるか悩むところです。

18. f3?


18. Ba3! Rf7 19. f3 Ng5 20. Bxf5 Nxf3+ 21. Kh1 Nxe1 22. Bxg6 Rf1+ 23. Kh2 Nxc2 24. Rxf1 hxg6 25. Bc5 ならば白は勝負できます。1つ前の分岐の変化もそうですが、Bc1-Ba3がf8のルークへの反撃を作りつつ、ルークを連結させディフェンスしやすくなる妙手でした。

18... Ng5! 19. Bxf5


19. Bxg5 Bxd3 20. Qd1 Bxc4-+ 異色ビショップにする判断もありますが、黒の白マス支配は強力で、白は厳しい戦いを強いられるでしょう。

19... Nxf3+ 20. Kh1 Rxf5!?

ルークを取る変化はどうなのか、時間が足りずに読めませんでした。20... Nxe1! 21. Bxg6 Nxc2 22. Bxc2 Rf1+ 23. Kh2 dxc4-+ この形は白のダブルビショップはさほど働けず、黒のルーク+ポーンのほうが強いようです。本譜は一時的にピースを捨てますが、白キングは不安定でディフェンスが難しい状況です。

21. gxf3 Qg3 22. Ba3?


この試合、勿体ないことに上記の分岐で白は何度かBc1-Ba3のタイミングを逃し、本譜ではあまり働かないタイミングで実行してしまいました。f8のマスを抑えて2つ目のルークの参戦を防ぎたいのは理解できますが、g5のマスから利きを外してしまうほうが危険です。代わりに22. Rf1! Qxh3+ 23. Kg1 Rxf3と指すべきですが、これでも黒はポーンを多く回収し、優位に試合を進められます。

22... Qxh3+ 23. Qh2 Qxf3+ 24. Qg2 Qh5+ 25. Qh2 Qg4!

e4-h1ダイアゴナルでのチェックのチャンスを残しつつ、Rf5-Rh5を準備すればクイーンを取ることができます。

26. Rg1 Qf3+ 27. Rg2 Rh5! 28. Rag1 Rxh2+ 29. Kxh2 g6 30. Rg3 Qe2+ 31. R1g2 Qxc4 32. Bd6 Qxa4 33. Rg4 Qb3-+


クイーンを取り、以下aポーンを進めて勝ちました。この4試合目で単独の全勝者となり、途中危ないゲームもありながらなんとか6.5/7で優勝できました。非公式の大会でも勝てるとやはり嬉しいですね。また次の大会の機会も楽しみにしています。

2024/01/12

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第27回予告

2024年最初のチェス講座が近づいてきました。1月のYouTubeでの講座は今週末、1/14 20時からスタートです。

1月のYouTubeの講座テーマは『A pawn is a pawn』です。『ポーンはポーンだ』と直訳するとなんのことか分かりずらいですが、『たかがポーン、されどポーン』と考えてみましょう。ポーンはチェスにおいて最弱の駒ではありますが、1つのポーンを巡る難しい攻防があり、そして1つのポーンが勝負を分ける重要なファクターにもなりえます。今月はポーンにスポットを当て、様々なゲームの流れや白黒のアイディアを見ていきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第27回『A pawn is a pawn』|2024.1.14

2024/01/10

Tokai Open 2024 Day2 Tournament Report

遅くなってしまいましたが、東海オープン2日目のレポートです。名古屋チェスクラブ主催で1/7-8に開催された東海オープンは、2日目に私と篠田くんが互いに1勝1ドローとなり、4.5/5で並んだ結果、わずかなタイブレーク差で私の優勝が決まりました。各セクションの入賞者の皆さん、おめでとうございます。

1st Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2298) 4.5/5
2nd Place Shinoda Taro (JPN, 1959) 4.5/5
3rd Place Kinoshita Akira (USA, 1811) 4/5

Tokai Open 2024 Final Standings


4Rの篠田くんとの試合はは、かなりまずい展開で負ける寸前でしたが、これをなんとか持ちこたえてドローにし、4連勝の木下さんを止めにいきます。今夜はこちらの最終戦のゲームをご紹介します。

Kinoshita A (USA, 1811) - Kojima, S (IM, JPN, 2298)
Tokai Open 2024 (5)

1. Nf3 d5 2. g3 g6 3. Bg2 Bg7 4. d4 c6 5. O-O Nf6 6. c3!?

黒のGrunfeldセットアップに対し、c2-c4と仕掛けず、c3で待つ手は私も注目しており、実は白番で指そうとオンラインで何度か試しているところでした。そのおかげで白のアイディアや、黒にどうされると少し嫌かもわかっていたのはラッキーです。

6... O-O 7. Bg5 Ne4 8. Bf4 Nd7 9. Nbd2 Nd6!?


d2でナイトを捌けば白のピースの展開を助けてしまうため、Nf6-Ne4-Nd6のマヌーバリングでナイトは盤上に残すことにします。d6のマスは再度e4への侵入を睨みつつ、f5,c4といったマスを睨む、典型的なナイトの好位置となります。

10. Re1 a5 11. a4 Re8 12. Qc2?!

このクイーンの位置取りは、すぐにBc8-Bf5のターゲットになるのでさほど良くないでしょう。ここではe2-e4からポーンストラクチャーを大きく変え、ピースのアクティビティーで勝負するのが良いと思います。もちろん黒としてもe4とd5を交換する形はCaro-Kann Defenceのポーンストラクチャーになるため、さほど不満はありません。

12... Nf6 13. Be5 Bf5 14. Qb3 Qd7 15. Rac1 Bh6! 16. Bxf6?!


Bf4-Be5と侵入してきたビショップに対し、Bg7-Bh6(or Bg7-Bf8) とビショップの利きを変え、ビショップ交換を避けながらNf6-Ng4などを狙う手はよくあるアイディアです。これに対してすぐにf6で交換をしかけるのはイマイチで、黒はダブルポーンでもeファイルを開いたことでe4のマスを抑えやすくなり、センターの支配とダブルビショップで優位に立つことができます。

16... exf6 17. e3 Bf8! 18. Nh4 Be6 19. Bf3 g5 20. Ng2 f5

白マスビショップの利きは一時的に弱めてしまいますが、f5-f4のブレイクを意識させたり、Nd6-Ne4と再度ナイトが跳びこむ手を見せられるのが良いかと思い、早めにfポーンを突くことにします。ここまでは良かったのですが、ここからの構想が冴えませんでした。

21. Be2 Re7?!


ダブルルークがeファイルにくる形は悪くないように思えたのですが、f8に退いたビショップが行き場を失い、駒の連携が取れなくなってしまいます。正しい作戦はNd6-Ne4,Bf8-Bd6と組み替えてからダブルルークをeファイルにそろえることで、これからば黒は白のキングサイドに強力なプレッシャーをかけることができました。

22. Bd3 f6 23. Qd1 Bf7 24. h4 Rae8 25. Kh2 h6 26. Rh1 Rd8

ここで自分の作戦ミスを認め、Bf8-Bd6の実現へと方向転換をします。一方で白もhファイルを開き、hファイルからの攻撃を画策しますが、2つのルークの連携が取れなくなるという弱点があり、リスクを取っているように思えます。

27. Kg1 Ree8 28. Qf3 Ne4! 29. Rd1


29. Bxe4 fxe4 30. Qxf6?? Bg7-+はクイーンがトラップになって黒勝勢です。これを見越してe4にナイトが入れたため、f8ビショップの活用も見えてきて黒がかなり指しやすくなったと感じました。

29... Kg7! 30. Ne1 Bd6 31. Ng2 Bg6 32. Nf1 Rh8 33. Qe2 Rde8 34. Qf3 Qf7!?

これは不要だったかもしれませんが、Bg6-Bh5を見せておくことで白からのh4-h5を誘い、白がhファイルを開く作戦を消しておきます。

35. h5 Bh7 36. Qe2 Re7 37. Qc2 Rhe8 38. Re1 Kh8 39. Re2 f4!?


互いに時間切迫の中、仕掛けるならばここだと思いましたが、39... Rg8のようにもう少し待っても良かったようです。しかし、白としてもこうして仕掛けられると対処に悩むでしょう。

40. gxf4 gxf4 41. f3? fxe3!

ここは41. exf4!と取るべきだったでしょう。もちろん、41... Rg8から難しいディフェンスを求められますが、すぐにどうしようもなく崩れるということはありません。逆に本譜は黒がe4のナイトを無視して局面を開き、ダブルビショップの強さを主張できるようになります。

42. Rxe3 f5!


再度ナイト取りを無視するのがポイントで、黒はナイトを取られてもe,fファイルのパスポーンを押していくことで駒損を解消することができます。

43. fxe4 dxe4 44. Bxe4 fxe4 45. Ng3 Rg8 46. Rh3 Qe6 47. Ne2 Reg7 0-1

最後はルークもダブルビショップも強力な利きを取り戻し、勝負を決めることができました。昨年に続き0.5P落としたものの、なんとか東海オープンで優勝できて良かったです。参加者、運営の皆様、ありがとうございました。また今年も名古屋に複数回遠征に期待と思っています。次の大会でも、よろしくお願いいたします。
入賞の賞品としては、欲しかったTiviakovの新刊をいただきました。4年前の対戦を思い出しながら中身をチェックします。
名古屋での試合後は京都に足を運んでいます。こちらは昨年末の紅白歌合戦でも登場した東本願寺です。

2024/01/07

Tokai Open 2024 Day1 Tournament Report

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。2024年は名古屋の東海オープンから公式戦のスタートです。20年を超えて長くチェスをしていますが、名古屋の大会が指し初めになったのは今年だけですね。昨年までは国内公式戦のみでしたが、今年の東海オープンはFIDE公式戦も兼ねており、40名の定員はあっという間に埋まりました。私は初日、初対戦となるDonaldsonさん、Bhatiaさんに勝ち。昨年白で3回当たった岡部くんに初の黒で勝ち。3連勝で初日を終えています。

Donaldson, S (JPN, 1588) - Kojima, S (IM, JPN, 2298)
Tokai Open 2024 (1)

1. e4 c6 2. Nf3 d5 3. Nc3 Bg4 4. h3 Bxf3 5. Qxf3 e6 6. Be2 Bc5 7. O-O Ne7 8. Na4 Bd6 9. d4 dxe4 10. Qxe4 Nd7 11. c4!?

Caro-Kann Two Knightsのこの変化は、昨年のチェコ遠征でインドのWGM Mohataと指しています。その試合では11. Rd1からb2-b3,Na4-Nb2-Nc4という組み替えでした。いずれにせよ、a4のナイトをどうゲームに戻すかがポイントになります。

11... Qa5 12. Nc3 Nf6 13. Qc2 Rd8 14. Bd3 O-O 15. Bd2 Qc7 16. Ne2


16. Ne4のように交換を催促するか、16. Bg5のようにf6取りからh7を落としにくるアイディアをメインで考えていました。センターのポーン並びの厚さを活かすのであれば、本譜のようにナイトを退いてピース交換を避けるのも納得です。

16... Ng6 17. Bc3 Rfe8 18. Rac1 e5! 19. dxe5 Nxe5 20. Bxe5? Rxe5

e6-e5のブレイクは狙っていたもので、e5,c5のマスを奪い返してピースを使いやすくします。白が黒マスビショップを手放すのは間違った判断で、黒の黒マスのプレッシャーを受け止めるのが難しくなってしまいます。ナイトと交換すべきは白マスビショップでした。

21. Nc3 Rde8 22. Nd1 Bc5 23. a3 a5 24. Nc3 g6 25. Na4 Ba7!


25... Bd4どちらにするか自信がありませんでしたが、c4-c5からビショップのダイアゴナルを閉ざされても、Ba7-Bb8からの組み替えがあるため問題無いと判断しました。

26. c5 Nd5 27. Rfd1 Bb8! 28. g3 Ne3!

黒のナイトはh5,d5のどちらに跳ぶか悩みましたが、b2-b4を防ぎつつ、このナイトの跳びこみを見据えるd5を選びました。29. dxe3 Rxe3と進む変化はg3も落ち、白キングの守りは崩壊します。

29. Qd2 Nxd1 30. Rxd1 Rd8 31. b4 axb4 32. axb4 Red5 33. Nb2 Qd7 34. Kg2 Be5 35. Qe2 Bxb2 0-1


エクスチェンジアップした後は、dファイルのピンを使いすぐに勝ちとなりました。年始から色々と起こっている2024年ですが、自分の試合は順調なスタートが切れて一安心です。初日3連勝は3人いて、明日私はルームメイトの篠田くんとの対戦になります。今年の初大会、優勝を目指して2日目も頑張ります。

Tokai Open 2024 R4 Pairings

昨年の名古屋オープンでは行列ができていて入店できなかった味噌カツのお店、らむちぃへ。相変わらずのねぎのボリュームです。
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