2017/10/01

Isle of Man International 2017 R8


トップボードではCarlsen がCaruana を黒で破り、優勝まであと一歩です!

この日は1番ボードのことから書きましょう。去年、タイブレークで敗れてマン島での優勝を惜しくも逃したCaruana が、この8R で白をもってCarlsen に挑みます。私は対戦相手が遅れたので、トップボードの開始を間近で見守ります。1. e4 で始まったゲームは、Ruy Lopez からArchangel Variation になりました。私が驚いたのは、Caruana は直前の7R で白を持ち、Gawain Jones のArchangel Variation をきっちり破っていたのにもかかわらず、Carlsen がこのオープニングをチョイスしたことです! 結果は鮮やかなタクティクスでCarlsen の勝ち! すぐ近くでこのようなドラマチックな展開を見ることができるのは、この大会の大きな魅力です。

さて、私はと言えば、Nihal にメイトを見逃して敗れたショックを振り切り、新たな気持ちで臨むラウンドです。相手のWIM はとても鋭くアタックしてくるスタイルのようなので、それを上手くかわして手堅くゲームを進めようと思いました。しかし、私の思惑とは裏腹に、最後は非常にシャープなゲーム展開を迎えます。

Osmanodja, F (WIM, GER, 2245) - Kojima, S (IM, JPN, 2403)
Isle of Man International 2017 (8)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nd2 e6 5. Nb3 Nd7 6. Nf3 Ne7



この試合、Advanced Variation であるならば、4. Nf3 だと思っていましたが、彼女はデータベースにない手を指してきました。ならばと私も過去に指した6... a6 ではなく、4. Nf3 のラインに手順前後する6... Ne7 を指します。

7. Be2 Nc8!?


全日本で弘平くんに指した7... h6 でも良かったのですが、すでにNbd2-Nb3 を入れている形では、ナイトをc8 に退く変化にしてみます。Dreev のAttacking Caro-Kann では、黒がこのようにナイトを退いた際は、b2-b3, c2-c4 と仕掛けるのが良いと書かれています。そのため、ナイトをb3 にすでに決めているのであれば、Nc8 と退くのもありだと考えたのです。この変化は2年前のJapan League で、桑田くんに指して勝っています。

8. O-O Be7 9. Ne1 O-O 10. Nd3 Ncb6 11. f4



ナイトをd3 に組み替えた以上、キングサイドのポーンが伸びてくることは予想していましたが、fポーンからであることは意外でした。11. g4 Be4 12. f3 Bg6 13. f4 と進めるのが普通の手順で、これにはf7-f5 を突こうかと考えていました。本譜でも11... Bg6 と下がれば同じですが、先にf4 までポーンを伸ばしたことでe4 のマスがアウトポストになっており、黒はe4 にビショップを跳び込ませるアイディアが使えます。

11... Nc4!? 12. g4 Be4 13. Nf2 Bg6 14. Nh1 f6!


白は相変わらずf4-f5 を狙いますが、これにはf7 にマスを作りつつ、センターポーンを崩しにいくf7-f6 のアイディアが使えます。

15. Ng3 Qb6



コンピュータは15... fxe5 16. dxe5 Qb6+ 17. Kg2 Rad8 で黒が大丈夫だと判断しますが、e6 のポーンを弱めた以上、あまり早くd4 にマスを空けたくはありませんでした。

16. Kg2 a5?


ここは試合中、すぐに後悔した一手です。a5-a4 を見せておけば、白はナイトを退かされないようにするために、a2-a4 と止めてくるものだと思い込んでおり、ルークがセンターに回るのはその後でも構わないと思っていました。実際には白は本譜のように仕掛けることができるため、16... Rae8! とe6 をサポートしておくのが先であるべきです。

17. f5! Bf7 18. exf6 Bxf6 19. g5 Bd8 20. Bd3



彼女は力強くこの手を指しましたが、私はビショップを置くのであればもう1つのマスを考えていました。20. Bg4! exf5 21. Bxf5 a4 22. Qg4! (22. Bxd7 axb3 23. cxb3 Nd6 ならば、ポーンの代償は十分ありそうです。) 22... c5 (22... axb3? 23. Bxh7+! Kxh7 24. Rxf7!+-) 23. Bxd7 axb3 24. cxb3+/- これは上記の変化よりもポーンの代償は少なく、黒は苦しそうに見えます。

20... e5 21. g6?


ここはどちらのポーンを伸ばすか悩みますが、fポーンが正解です。21. f6 g6 (21... exd4 22. Qg4!) 22. Qg4! Qc7 23. Nc5 Nxc5 24.dxc5+/- ならば、c4 に跳び込んだナイトの行き場がなく、負けを覚悟しなければいけなかったでしょう。g7-g6 の押し込みも考えていましたが、黒キングはさほど危険ではなく、これならば勝負できると思っていました。

21... Be8 22. gxh7+ Kh8 23. c3



h8 のキングには追撃がなく、黒はここから反撃を作ることができます。

23... a4 24. Bxc4 dxc4 25. Nd2 exd4!?


白マスビショップを貰ったため、g2 のキングが攻撃しやすくなったと思い、ポジションを開きにいきます。25... Bf7! 26. dxe5 Nxe5 も黒のピースはアクティブで、ポーンの代償が間違いなくあるポジションです。

26. Nxc4 Qb5 27. Qxd4 Bf6 28. Qg4 Bf7 29. Nd6 Bd5+ 30. Kh3 Qa6 31. Bf4 a3 32. bxa3?!



黒は8段目で眠っていたダブルビショップを叩き起こし、キングサイドとクイーンサイド、両方に揺さぶりをかけます。a3 のポーンは取ってしまうと、黒のクイーンとルークをアクティブに使うチャンスを与えてしまうため、c3 のポーンをあきらめるとしても、32. b3 のほうが良かったでしょう。

32... Bxc3 33. Nh5


データベースで彼女の試合を見ていると、とにかくエクスチェンジサクリファイスが好きなことが分かりました。ここでもa1 のルークを逃げませんが、g7 への攻撃を考えるのであれば、黒はディフェンスの要である黒マスビショップを残しておくほうが安全でしょう。

33... Qxa3! 34. Bg3 Bf6?



白は次にf5-f6 の押し込みを狙っているため、ここは1手、ディフェンスを入れんなければいけないと思いました。しかし、34... Ra4! 35. Nf4 Rf6! 36. Ng6+ Rxg6 37. Qxg6 Bxa1 38. Re1 (38. Rxa1? Qf3! 39. Rg1 Nf6 40. Nf7+ Bxf7 41. Qxf7 Rh4+ 42. Kxh4 Qg4#) (38. Qe8+ Kxh7 39. Qh5+ Kg8 40. Qe8+ Nf8-+) 38... Ra8 39. Rxa1 Ne5 40. Qh5 Qxd6-+ このようにして勝ちでした。すべてを読み切れなくても、a4 にルークを上げる手は見えなければいけません。

35. Rae1! Ra4


次のNh5-Nf4-Ng6 に対するディフェンスがわからず、こう指すしかありませんでしたが、これで正解でした。しかし、振り返ればもう1手早く指していれば黒勝ちだったのにと惜しまれます。

36. Rf4?


36. Nf4! Rxf4 37. Qxf4 Qxa2+/= ならば黒はエクスチェンジを捨てるしかありませんでしたが、まだ形勢は難しいと思います。彼女はh5 のナイトがg7 へのアタックの要だと思い込み、g6 へ切り替えることができなかったのでしょう。

36... Qxa2!



ここはa2 を取るか、b2 に侵入するか時間のない中で迷いましたが、これもOK でした。f6 のビショップに紐をつけなければいけない理由は特に見当たらず、ポーンを早めに貰っておきます。g2 でのメイトがあるため、白はa4 のルークを取れないことがポイントです。

37. Bf2?


37. Re2 Qb1 (Qb1-Qf1 の狙いを作ることで、a4 のルークを取られないようにします。) 38. Re1 Qb2 39. Re2 Qc1 40. Re1 Qc2 41. Re2 Qd1! 42. Re1 Bg2+ 43. Kxg2 Qxg4 44. Rxg4 Rxg4-+ 1段目と2段目を交互に動き、d1 まで潜り込めればドローにはなりません。それでもこちらのほうが難しい変化で、本譜のようにすぐに黒が勝つことはなかったでしょう。

37... Ra3+! 38. Be3 Qd2 39. Qg3


39. Qg1 Bd4 40. Rxd4 Qxd4-+ でも黒の勝ちです。

39... Bg2+! 40. Qxg2 Qxe1 0-1



今大会でこれまで鬼門だった時間の増える40手目、この試合では正しい手を指せました。この駒損ではどうしようもないため、白は増えた時間をさして使うことなくリザイン。私にとって嬉しい白星を挙げました。

最終戦はなぜか連続で黒... ドイツのLebbe Nikolas との対戦です。序盤はCaruana からドローを取ったものの、ここ3試合は下相手にドローでピリッとしません。私にとっては今大会初の2500台との試合で、ポイントが取れると嬉しいですね。最終戦のみ、いつもより1時間半早い、日本時間の20時スタートです! ライブで観戦予定の方はご注意ください。

2017/09/23 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Dahl, B (ENG, 1974) 1-0
2017/09/24 R2 Xiong, J (GM, USA, 2633) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1-0
2017/09/25 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Riazantsev, A (GM, RUS, 2666) 0-1
2017/09/26 R4 Birkisson, B (ISL, 2164) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
2017/09/27 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Oyama, A (ENG, 2198) 1/2-1/2
2017/09/28 R6 Heimisson, H (ISL, 2185) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
2017/09/29 R7 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Nihal, S (IM, IND, 2483) 0-1
2017/09/30 R8 Osmanodja, F (WIM, GER, 2245) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
2017/10/01 R9 Lubbe, N (IM, GER, 2515) - Kojima, S (IM, JPN, 2403)

Isle of Man International 2017 R9 Pairings
Isle of Man International 2017 Live Games


最終日を前に、景気づけに近くのグリルへ。400g 以上の肉を2人で分けました。

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